泉質と効能
温泉には含有成分の違いによって、様々な種類があり、その種類のことを「泉質(せんしつ)」と呼びます。泉質によって、お湯の色や匂い、効能に違いがあります。
温泉1kgに含まれる溶存物質が1,000mg未満の温泉は単純温泉、1,000mg以上の温泉は含まれる成分の名前で呼ばれます。
一般適応症
泉質に限らず、すべての温泉で得られる効能を一般適応症と呼び、次のような効能があります。
- 筋肉若しくは関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)
- 運動麻痺における筋肉のこわばり
- 冷え性、末梢循環障害
- 胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)
- 軽症高血圧
- 耐糖能異常(糖尿病)
- 軽い高コレステロール血症
- 軽い喘息又は肺気腫
- 痔の痛み
- 自律神経不安定症やストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)
- 病後回復期
- 疲労回復、健康増進(生活習慣病改善など)
泉質別適応症
温泉には、一般適応症以外に泉質別で効能があります。温泉には、大きく分けて以下の10種類の泉質に分けられ、それぞれ効能や特徴が異なります。
特徴
無色透明、無味無臭、お湯が柔らかいといった特徴があります。他の泉質と比べて体への刺激が強くないため、子供や高齢者にも入りやすく「万人の湯」と呼ばれています。pHが8.5以上は、アルカリ性単純温泉と呼ばれ、美肌効果があります。国内で最も多い泉質で、約40%を占めると言われます。
効能
疲労回復、神経痛、筋肉痛、肩こり、自律神経不安症、不眠症、うつ状態
主な温泉地
由布院温泉(大分県)、石和温泉(山梨県)、鬼怒川温泉(栃木県)、下呂温泉(岐阜県)など
特徴
無色無臭、食塩を含むため舐めると塩辛く、海水の成分に似ています。塩分が汗の蒸発を防ぎ、保温効果が高く、湯冷めしにくいことから「温まりの湯」や「熱の湯」と呼ばれています。殺菌効果もあり、外傷治癒にも利用されます。日本の温泉の3割弱が塩化物泉で、単純温泉に次いで2番目に多い泉質です。
効能
関節痛、冷え性、切り傷、末梢循環障害、うつ状態、皮膚乾燥症、やけど
主な温泉地
定山渓温泉(北海道)、熱海温泉(静岡県)、鉄輪温泉(大分県)、白浜温泉(岐阜県)など
特徴
ツルツルの感触の湯で、肌をなめらかにする作用があり「美肌の湯」と呼ばれ、女性に人気の泉質です。湯上がりに清涼感や爽快感が感じられることから「清涼の湯」とも呼ばれます。名前で混同しやすいですが、一般的に「炭酸泉」と呼ばれているものは二酸化炭素泉で、炭酸水素塩泉とは別物です。
効能
美肌作用、切り傷、やけど、慢性皮膚病、糖尿病(飲用)、痛風(飲用)
主な温泉地
肘折温泉(山形県)、東鳴子温泉(宮城)、塩原温泉郷(栃木県)、長湯温泉(大分県)など
特徴
硫化水素を含むお湯は硫黄特有の匂いがして、温泉気分に浸ることができます。硫黄の毛細血管を拡張する作用により、血行が促進され体の芯から温まります。また、硫黄泉は「美人の湯」と呼ばれ、体の内外からの美肌効果が期待できます。その他にも殺菌効果が高く、慢性的な皮膚病や切り傷にも効果があります。お湯の色は、乳白色やエメラルドグリーンが多いようです。
効能
リウマチ、運動障害、しもやけ、創傷、美肌、皮膚病、慢性婦人病、動脈硬化、冷え性、糖尿病(飲用)
主な温泉地
那須温泉郷(栃木県)、草津温泉(群馬県)、別所温泉(長野県)、雲仙温泉(長崎県)など
特徴
放射能泉は、一般的にラジウム温泉と呼ばれます。放射能というと怖いイメージがありますが、ラジウム温泉に含まれるラドンは微量で、すぐに体の外に放出されるため危険はないそうです。むしろ放射能泉には、細胞を活性化させて免疫を高める効果があり「万病の湯」とも呼ばれます。特に痛風に対する効果が高く、飲用せずに痛風に効果がある唯一の泉質です。
効能
痛風、関節リウマチ、動脈硬化症、高血圧症、慢性皮膚病、婦人病
主な温泉地
特徴
硫酸の血管を広げる働きで酸素を血液に多く送ることで、動脈硬化や高血圧症を緩和してくれます。保温効果が高く、湯冷めしにくい特徴もあります。傷に効くことから「傷の湯」と呼ばれています。しっとりと肌を保湿する効果があり、硫酸塩泉は、炭酸水素塩泉、硫黄泉と合わせて「三大美人泉質」と言われています。
効能
動脈硬化症、高血圧症、切り傷、やけど、慢性皮膚病
主な温泉地
浅虫温泉(青森県)、水上温泉郷(群馬県)、南阿蘇温泉(熊本県)など
特徴
酸性泉は、入浴すると肌がピリピリした刺激を感じることが特徴です。その強い殺菌効果によって、水虫、アトピー性皮膚炎などに効果があり「直しの湯」と呼ばれています。慢性皮膚病の方が、酸性泉を求めて湯治に行くということも多いそうです。肌への刺激が強いため、入浴後はシャワーで体を流したほうがよいでしょう。
効能
水虫、アトピー性皮膚炎、尋常性汗乾癬、関節炎、神経痛、胃腸病
主な温泉地
蔵王温泉(山形県)、岳温泉(福島県)、蓼科温泉(長野県)など
特徴
鉄分を含む泉質で、鉄の匂いと茶褐色のお湯が特徴です。源泉は無色透明ですが、空気にふれて酸化することで色が変わります。保温効果が高く、体の芯から温まります。「婦人の湯」と呼ばれ、月経障害、更年期障害などに効果があります。
効能
神経痛、リウマチ、創傷、婦人病、鉄欠乏性貧血症(飲用)
主な温泉地
特徴
炭酸ガスが溶け込んでいる泉質で、入浴すると気泡が肌に付きます。皮膚の内側に吸収された炭酸ガスが、毛細血管を拡張して血行を促進する効果があり「心臓の湯」や「高血圧の湯」と呼ばれています。炭酸ガスは高温になると気が抜けてしまうため、泉温の高い日本の温泉では天然の炭酸泉(二酸化炭素泉)は非常に珍しいそうです。スーパー銭湯などにある炭酸泉は、高温水に炭酸ガスを溶かす特殊技術によって人工的に作られたものですが、同じ効果が期待できます。
効能
高血圧、動脈硬化、切り傷、やけど、胃腸病、婦人病など
主な温泉地
特徴
うがい薬や傷薬の成分として含まれるヨウ素が含まれた泉質で、茶褐色の湯と薬のような匂いが特徴です。浴用の泉質別の適応症は認められていませんが、強い抗菌作用があり、飲むと高コレステロール血症に効果があります。以前は無かった泉質で、2014年の「鉱泉分析法指針」の改定で追加されました。
効能
高コレステロール血症(飲用)
主な温泉地
その他の分類方法
温泉には、泉質の他にも分類の仕方があります。泉質の後に(低張性 アルカリ性 高温泉)などという表記を見たことがある方もいるでしょう。これは、以下の3つの分類による表記で、それぞれ特徴があります。
浸透圧による分類
人体の細胞液と等しい浸透圧を持った液を等張液といい、それと等しい浸透圧をもつ温泉を等張性、それより低い浸透圧の温泉を低張性、高い浸透圧の温泉を高張性として分類します。
- 低張泉:等張液よりも低い浸透圧の温泉(8,000mg/kg以上)
- 等張泉:等張液と同等の浸透圧の温泉(8,000〜10,000mg/kg)
- 高張泉:等張液よりも高い浸透圧の温泉(10,000mg/kg以上)
肌は温泉成分を浸透させることから、人体よりも高濃度の「高張泉」ほど成分を体に吸収しやすくなりますが、湯あたりを起こしやすい傾向もあります。また、逆に「低張泉」ほど水分を吸収しやすくなり、肌に優しい温泉といえます。
イオン濃度による分類
水素イオン濃度(pH値)による分類で、酸性、中性、アルカリ性に分類され、細かくは、pH値によって以下のように決まっています。
- 酸性泉:pH3未満
- 弱酸性泉:pH3〜6未満
- 中性泉:pH6〜7.5未満
- 弱アルカリ性泉:pH7.5〜8.5未満
- アルカリ性泉:8.5以上
酸性泉は殺菌効果が高く皮膚病に効き、アルカリ泉は肌の角質を取るため美肌効果があります。中性泉は、刺激が少なく肌に優しい温泉といえます。
泉温による分類
温泉の湧出口(源泉)での泉温によって、次のように分類されます。
- 冷鉱泉:25℃未満
- 低温泉:25〜34℃未満
- 温泉:35〜42℃未満
- 高温泉:42℃以上
一般的に、入浴に適した温度は42℃ほどと言われていますので、温泉と言ってイメージされるのは、それよりも温度の高い「高温泉」ではないでしょうか。日本一の源泉数、湧出量を誇る大分の温泉のほとんどは「高温泉」だそうです。
といっても、温度が低いからといって温泉ではないわけではありません。温泉の定義は、温泉法という法律によって定められていて「温度が25℃以上」か「25℃未満でも、定められた19種類の物質のいずれかが規定量以上含まれるもの」となっています。そのため、冷鉱泉であっても、温泉ということもあります。